2014年03月04日

かばん2月号「叙情のためのエチュードX」(連作8首)


『叙情のためのエチュードX』

 ガラスごしあなたは顔を傾けて冬、と小さく口を尖らす

 ぬくもりだろうよろこびだろう冷えるほど会いたくなってしまうのは何故

 木枯らしを飼っているとは知らなくてごめん温め合ってしまった

 まなじりに風はゆっくり吹きだまりこちらジェンガのような日々です

 缶コーヒーが世界をすこし温めて死にゆく朝に見る春の夢

 えりあしの雪はあなたのためだけに降ってきた雪だからね 笑って

 雲がうすく伸ばされ消えるあんなふうにいなくなれたら幸せなのに

 電柱に根のないことの悲しみをあなたは歌にして口ずさむ



(かばん2014年2月号掲載) 


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かばん1月号(2首)


詠草2首

 動かない点になるべく僕たちは問題が解かれるのを待った

 鳥をさばく魚をさばく君の手がわたしに触れて高揚は来る


(かばん2014年1月号掲載) 

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2013年12月15日

かばん12月号「冬晴れを吸う」(連作8首)


『冬晴れを吸う』

 咲く前に花のうつくしさを言うような遊びかさねて三月はくる

 火を喰らうような夕暮れここからの景色を覚えておかなくてはな

 五線譜をちいさく揺らし来る風のひとつがお前 携帯がなる

 春雷のそのものとしてきみの言う痛みに疼く下腹部あたり

 この部屋の遠景として立つような励ましも届かない分娩台横

 声を出すものを命と呼ぶのなら微かに命 二分が過ぎる

 冬晴れを吸いこんだのだ仕方ない次第に赤みさしていく腕

 持ち込んだ詩集の終わりのびやかにお前は四肢を投げ出して泣く



(かばん2013年12月号掲載) 
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かばん11月号「秋へと続く風」(連作8首)



『秋へと続く風』

 珈琲のかおりを髪にくぐらせたきみに問われてしまうこれから

 嵐へと向かう微熱を手のひらにのせて差し出すきみの悪戯

 あさっての話に花を 雲梯はふたりを拒むように傾く

 きみの漕ぐ錆びたブランコゆうゆうと僕の背丈をこえて まぶしい

 水壁は指のすきまを抜け落ちて変化を恐れるなって誰かの言葉

 噴水にあわせて跳ねるスカートの白さいよいよひかりをはじく

 寂しげな駅にふたりの声だけが馬鹿みたいだな 愛しています

 肩までの髪をしずかに開かせるこれは秋へと続く風だね



(かばん2013年11月号掲載) 
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かばん10月号「観察日誌」(連作8首)


『観察日誌』

 あたらしい癖を見つける早朝の風にふくらむカーテンのなか

 丸い目をいっそう丸くする人よ 進化は愛をこいねがうこと

 ひざ六つ並べてつくる空間に風花の舞うような微笑み

 似てはならない似てはならないよ冬の日の塩基ならべる遊びの果てに

 大人には見えないものか天井のある一点を見つめるお前

 手の届くものから順に捕まえて捕まえたことを忘れて放す

 みなひとはやわらかな熱を持つのだと気付くお前を抱きあげるとき

 花ひらくひかりは遠くはじめてのお前の夏がもうすぐ終わる



(かばん2013年10月号掲載) 
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2013年10月07日

かばん9月号「秋へ」(連作8首)


『秋へ』

 さりげなく来ていた春の一歩目に名前をつける夏のふたりは

 月島は夢の切れはし重力に逆らうような言葉かわせば

 公園のすべての青を洋服に吸わせて夏のあなたは跳ねる

 告げる名をきらきらさせるさざ波に流されたってよかったのだが

 はじめての最後を思う階段をのぼるときみな俯くように

 種なし葡萄に種のないこと水ぎわに落ちたね生まれ落ちてしまった

 ビルに取り囲まれ影がなくなって僕たちはなにものにもなれない

 秋の気配にわかに沁みる夜風にうつくしい死にかたの話を



(かばん2013年9月号掲載) 
posted by 田中ましろ at 16:38| Comment(0) | TrackBack(0) | かばん掲載歌 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2013年08月15日

かばん8月号「夏の影」(連作8首)


『夏の影』

 木々を縫う風に晒され八月のなにものにも代えがたい衝動

 昼ひなか空に広がる流線を数えてきみの駆け足を追う

 笑えればいいってものじゃないけれど夏の影踏みあってほぐれる

 積乱雲は祈りのかたち示しつつ真夏ふたりに降る水しぶき

 転がって天地逆さになる午後に意味をもとめてしまわぬように

 頬骨を光らせながら駆けてきてそのまま抜けていくような人

 すぐ溶けるものにさよなら繰りかえし慣れていくんだろう別れにも

 屋上へ向かう階段ゆくような軽さよ きみのかばんが弾む



(かばん2013年8月号掲載)
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2013年07月16日

かばん7月号「わたしと、わたし以外のすべて」(連作8首)


『わたしと、わたし以外のすべて』

 いちまいの羽を落として(これは孤独)もう水鳥は行ってしまった

 待つ人のいる人の目のやわらかく そこに断層面を見つける

 八月の蛇口すべてが空をむき神様さえも撃ちぬくように

 みんなみんな案山子に見えて夏雲のむこうの青へ視線をおくる

 色のない他人の海がひろがってわたしとわたし以外だ 世界は

 まるくなる鉛筆の先 触れ合えば人もわずかに侵食しあう

 海だったころのわたしよ人波のなかで目覚めてしまってはだめ

 ひらく傘とじる傘あり地図上は平和に満ちているのにな 雨



(かばん2013年7月号掲載)

posted by 田中ましろ at 11:44| Comment(0) | TrackBack(0) | かばん掲載歌 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2013年06月26日

かばん6月号「叙情のためのエチュードW」(連作8首)


『叙情のためのエチュードW』

 幸せの果ての惰性と知りながら手をとり春の回廊(コリドー)をゆく

 六月の現実として降る雨のしずけさ 決意するということ

 遠まわり 買ったばかりの画用紙に名前をつけるあなたとともに

 むくむくと笑いころがる花冷えの丘では雲を数えたりして

 光る海でしたあなたは両腕をひらいて雨をともだちと呼ぶ

 点線を破線と呼んだくるしさのひかりにきっと溺れてしまう

 銃弾をひとつ見つける週末に愛は死んだのか 答えを

 歩きだせ誰かと生きていくときの春には自動ドアが似合うね



(かばん2013年6月号掲載)

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2013年05月24日

かばん5月号「HELLO」(連作8首)


『HELLO』

 暗闇を抜けて外気に囚われた不安にうまく泣けないお前

 肺にまで溢れる水の重たさに浮かぶ命をつむぐ医師の手

 生きなさいと囁く声のあることを知ってお前はこちらに落ちる

 響く声ひびく部屋ごと朝がくるその真ん中に心臓を置き

 見開いた目は淀みなく問いかける世界はうつくしいものですか

 長い時間を生きてきたのだ手も足も複雑すぎるほどの凹凸

 純白の似合う身体に千の笑み受けてお前は花道を行く

 はじめての雨音を聞く三人のそれぞれにはじめての雨音



(かばん2013年5月号掲載)

posted by 田中ましろ at 21:50| Comment(0) | TrackBack(0) | かばん掲載歌 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2013年04月23日

かばん4月号「ある平和」(連作8首)


『ある平和』

 皮膚ごしに触れてお前の伸びやかな腕を受け止めている三月

 春の日に手を振っている向かい合うことは誰かに背を向けること

 ある平和としてリビングいちめんに玩具広げるみたいな会話

 諦めと覚悟は似てる両腕がいのちを包むかたちになって

 躊躇する間も与えない歳月の怒涛 ああ こんなにもまぶしい

 パラダイムシフトと呼べばうつくしくわたしは水葬されてしまうね

 跨線橋からの夕焼けはしゃいでるはしゃいでるってただの微動を

 いのちいのちいのちお前を抱くことでわたしは次の世界にいくよ



(かばん2013年4月号掲載)


posted by 田中ましろ at 01:10| Comment(0) | TrackBack(0) | かばん掲載歌 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2013年04月12日

第4回角川全国短歌大賞・特選

第4回角川全国短歌大賞にて
岡井隆さんの特選に選んでいただきました。


群れるときわたしは消える図書館の深くに史書の眠るみたいに

<岡井さん評>
図書館の歌として知的でもあり、ユーモア含みでもある。冴えていると思う。「群れる」と「わたし」。(これは私性でもあり作者自身でもある。)そして図書館における「史書」の位置づけのおもしろさ。秀逸な歌。三十二歳男性の歌だ。


(角川学芸出版「短歌生活4号」掲載)(短歌は角川短歌4月号にも掲載)

年齢さらされたw


posted by 田中ましろ at 15:31| Comment(2) | TrackBack(0) | 日常詠 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2013年03月29日

「短歌男子」のご案内。

こんにちは。田中ましろです。
ツイッターではすでに告知していますが
来月4/14の文学フリマ@大阪にて「短歌男子」という同人誌を販売します。


10人の男性歌人によるスーツ姿グラビア+20首連作アンソロジーです。
歌誌にグラビア写真を載せるなんてふざけてるという声もあるかもしれませんが、
「短歌に興味のない人にまで広く作品を届けるための工夫は必須」という
僕の基本的な考えにしたがってこの形となりました。
おかげさまで発売前にたくさん話題にしていただいてありがたいかぎりです。

参加歌人は
飯田和馬、牛隆佑、岡野大嗣、木下龍也、天国ななお、
中島裕介、廣野翔一、虫武一俊、ユキノ進、田中ましろの10名。
話題性だけでなく作品のクオリティとしても申し分のない1冊になったと思っています。

文学フリマ当日は「短歌男子」ではなく「うたらば」名義のブースでの販売となります。
ブース番号【E-24】を探していただけますと幸いです。
文学フリマ@大阪の詳細はこちらをご確認ください。
http://bunfree.net/?16th_bun


また、文学フリマに起こしいただけない方のためにWEBでの通販もご用意しています。


特設サイト(http://www.utalover.com/danshi/)に公開している立ち読み版もご覧いただき
興味を持っていただけましたらサイト内の問い合わせフォームから
・必要冊子数
・郵送先住所
・郵便の届くお名前
を記入いただきご注文ください。
文学フリマ前後に商品発送、
料金は短歌男子とともにお送りする払込票を使っての後払い(1冊600円)となります。
フォームを使わず、utalover☆gmail.com(☆を@に変えてください)へ
直接メールをお送りいただいても構いません。

早く読んでいただきたくてうずうず。
参考までに目次画像を掲載しています。立ち読み版は作品も一部読めます。
01.jpg

短歌男子をどうぞよろしくお願いいたします。

田中ましろ拝


posted by 田中ましろ at 12:10| Comment(0) | TrackBack(0) | お知らせ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2013年03月27日

うたつかい2月号「叙情のためのエチュードV」


『叙情のためのエチュードV』

 霜柱踏み抜くように凛々しさよ底冷えの空から降りなさい

 消えたがる息をふたりで追いかける 進め 進め 進め けものみち

 難しく生きてはだめと言いつけてホットのペットボトルを渡す

 心臓を守るかたちに丸まってあなたは涙そのものになる

 ギアチェンジした春がうねりをあげてやってくるよと風に教わる



テーマ詠「告白」
手のひらのサイズが違うあなた、いや、君、いや、おまえ、お前を守る


(うたつかい2013年2月号掲載)



posted by 田中ましろ at 15:14| Comment(0) | TrackBack(0) | 日常詠 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2013年03月19日

かばん3月号「春に待つ」(連作8首)


『春に待つ』

 待ち人は来ましたかって街じゅうの人に問いたい初春の駅

 降る雨はかなしいと言う ふたりして見ていても雨はかなしいと言う

 春の波としてあなたはゆっくりと深くわたしに押し寄せてくる

 ちぎったらもう戻らないエイヒレを分け合うことも答えのひとつ

 茶化しあいながら大きな布を織るように言葉でことばを探す

 お湯割りの焼酎ぬるくなるまでを核心以外のことにまみれて

 距離感はふたりで決める約束のまま冷静な手を触れあわす

 やがて去る波に寄り添う未来図を帰路のあなたの顔も知らずに



(かばん2013年3月号掲載)

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2013年02月17日

かばん2月号「叙情のためのエチュードU」(連作8首)


『叙情のためのエチュードU』

 硝子から染みこむ冬をたしかめて大げさに大げさに 来たよね

 犬になる 真冬の腕がのびてきて僕らはもう抗いようもなく

 ふゆぞらに向かって爆ぜる子供らの背にあざやかな光のおわり

 遺伝子のせいじゃないかな点滅を見たら駆けだす朝のひとびと

 グアテマラの雨を思ったうすけむり燻ぶるような駅前に出て

 新雪をためらわず踏むあなたには見えない朝のかたすみに立つ

 手遅れとわかってからが戦いの、ため息はなんと美しいのか

 逆立ちをしても落ちてはこないから空よそのまま生き続けなさい


(かばん2013年2月号掲載)

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かばん1月号2首+新春題詠「夜」

※1月号は名刺交換号ということでタイトルなしの2首掲載です。


初雪にどちらが先に気付いたか言いあらそって朝焼けの坂

ゆるいつながり残酷すぎるその距離のおはようもさよならも抜け殻


<2/17追記>
新春題詠「夜」提出作

見えすぎるあなたのとなり臆病な夜のきりんを想って暮らす

(かばん2013年1月号掲載)

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2012年12月17日

かばん12月号「いつもと同じ夕暮れのなか」(連作8首)+回文短歌1首


『いつもとおなじ夕暮れのなか』

 安眠と呼べるだろうか麻酔から目覚めるまでの父の不在は

 取り出した臓器は医療廃棄物/こちらがおとうさまの胃です

 重力にさからう術を失って胃はだらしなく手にのしかかる

 蛍光灯に胃を晒しては斑点をかぞえる医師のにぶいまなざし

 たくさんの嘘をあなたについたけど大丈夫って嘘は初めて

 にんげんのかたちを保つ縫い目から滲む水 そうだ生きたいのだ

 生きるとは何を残すかではないと父は言う 何も残さないと言う

 心臓の近くにひとつ空洞は生まれてみんなみんながうさぎ

+++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++
<誌面企画への出詠>
○山田航さんの回文をひとつ選び短歌もしくは散文を返す企画に寄せて
(山田さんの回文)
明治時代、添い遂げしわが妻小松川シゲと急いだジジイめ

(回文へのましろ返歌)
 秋刀魚にて飯食う母の意地張れば爺の歯は浮く しめて二万さ
 【さんまにてめしくうははのいじばればじいのははうくしめてにまんさ】

(かばん2012年12月号掲載)

posted by 田中ましろ at 23:22| Comment(0) | TrackBack(0) | かばん掲載歌 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2012年12月11日

空き地歌会・倉野歌会詠草

12月の冒頭から2週連続で歌会でした。
どちらもオープンな歌会だったのでこちらに転載しておきます。

空き地歌会は何気に第1回から第4回まですべて会場参加、皆勤です。
せっかくなので過去詠草もまとめておきます。

・第4回空き地歌会詠草(テーマ「結」)
 真冬日の結び目きつくバスを待つあいだにすこし君を忘れる

 
・第3回空き地歌会詠草(テーマ「地」)
 うつくしいしあわせを名に持つ人の手のパン生地になりたい夕べ
 

・第2回空き地歌会詠草(テーマ「再」)
 茹ですぎたファルファッレ春のせいにして君と話した輪廻について
 

・第1回空き地歌会詠草(テーマ「初」)
 こんなとこに黒子があるね はじめての角度できみを見る椅子のうえ 

第1回は最多得票だったので栄えある初代空き地王に選んでいただきました。
第3回は同率で最多得票でしたがじゃんけんに負けて惜しくも空き地王を逃しました。
これからも抽選に当たれば参加したいと思います。いつも運営ありがとうございます。

そして12/8は倉野歌会(テーマは「聖」)

・詠草
 冬風に触れた手と手の、あのときか、お前が主張する処女受胎

こちらはまぁ、ぼちぼちの得票でしたが個人的には気に入ってます。

参考リンク:歌会の詠草一覧などはこちらから↓
空き地歌会> http://akichikakai.blogspot.jp/
倉野歌会> http://kuranoichi.blog.fc2.com/


posted by 田中ましろ at 00:31| Comment(0) | TrackBack(0) | 日常詠 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2012年11月30日

題詠blog2012詠草一覧

詠草一覧を見やすいようにまとめておきます。
太字は自選10首。
今年は基調となる短歌をひとつ決めてその世界観ですべて詠んでいくつもりでした。
途中少しブレました(別の連作にしたものが混じってます)が基本路線はキープということで。

<基調短歌>
魔法などとっくに解けているはずのシンデレラから手紙がとどく [000:]

<詠草>
菜の花を自分のために茹でながら名もなき今日をあなたで満たす [001:今]
手を振っている(さようなら)隣国に降った初雪ほどの淡さで [002:隣]
夜ひとつください 雨を散りばめてそこにあなたを落としてあそぶ [003:散]
おやすみを言えないままに傷ついた果実じわりと香りたつ朝 [004:果]
机・椅子・あなたの順で点線にそって切りとる そこにひだまり [005:点]
手紙から湧き出たものは風化していつか時代と呼ばれるでしょう [006:時代]
針のないステープラーで噛みついて驚かしていたそのステープラー [007:驚]
消えていくものと知ってて掘り起こすシナプスの青 深い青色 [008:深]
句読点消してしまえばもう呪文めいて指先程度の契り [009:程]
指紋まみれのカードでもいい目覚めたらジョーカーのいない世界へ行こう [010:カード]
ルービックキューブ揃えてしまったら世界が終りそうな夕焼け [011:揃]
皺のないあなたの眉間おだやかに夏の希望を拒絶している [012:眉]
夢のなかあなたは光る逆鱗を剥いでξξまるでさよならみたい [013:逆]
教科書の偉人じゃ誰がいちばん好きなんて話題で暮れていく駅 [014:偉]
カーテンをくぐってやわらかくなった風 図書館が深海のよう [015:図書]
思いがけない雪に逢う∵∴あなたには引力という名の言い訳を [016:力]
従順なふりをしている犬として∽つむじ風にも耐えなくてはな [017:従]
えんぴつの先に止まっていた午後を希釈してこれからの話を [018:希]
似てるかよ そっくりな顔を並べて嘯くだけでもう春の夜 [019:そっくり]
忘れたらそれでおしまい劇薬の瓶のかたちのように座って [020:劇]
愛しなさいなんて指示されない夕べあなたがあなたのまま光りだす [021:示]
こうもりを捕まえてきて突然の指令さえつながりのひとつに [022:突然]
必要とされたい心 雨の日に欠けたカップもあなたでしたね [023:必]
とめどなく鳩のマークを描いていく玩具に飽きた夜のあなたは [024:玩]
いっさいを否定できない静寂のあなたに春は触れるなと言う [025:触]
最後って、いつも、そうだ、責めたてるシャワーを拭うこともなく立つ [026:シャワー]
逃げながらしかし損得は数えて癒えない傷にプライドを持つ [027:損]
ゆっくりと上下している頬骨のあなたの皮脂もすべて必然 [028:脂]
川沿いに座らないからゆるやかに変わる世界の音に気付くこともなく [029:座]
林檎など食べたくもないくせにすぐ買ってきてという敗北宣言 [030:敗]
知りたいのはここから先の僕たちのそれはもう大人としての価値  [031:大人]
まっさらな雪を踏みつつあなたから問い詰められるときの欲情 [032:詰]
滝つぼに足をさしいれ(愛ゆえに)ただ危ないと言われたかった [033:滝]
掃除機の音が聞こえたそのあとに朝はくるあなたの微笑みと [034:聞]
むしろ罪 やがては枯れてしまう花だから愛しているのでしょうか [035:むしろ]
冬にしてはぬるい日差しを右肩に受けて芽吹いてしまうのだろう [036:右]
甘噛みに必要な牙を見せあって猫のポーズであなたと過ごす [037:牙]
理想的恋人として適切な強さ・角度で抱きしめないと [038:的]
石ころに引かれて進むこどもたちと思ったらなんだ蹴っていたのか [039:蹴]
勉強を嫌いつつ机に向かう遺伝するものみな美しい [040:勉強]
かなしみの湧きだす場所か喫茶店いちばん奥の席に座れば [041:喫]
いっぽんと数えられない稲妻のあなたは嬉々として跳ねまわる [042:稲]
タイピング音に似ている雨の死をかさねて空は輝度をうしなう [043:輝]
止まったら止まったままの夢を見て あなたにドライフラワーを買う [044:ドライ]
ささやかな罰をあなたに用意して誕生日には薔薇を贈るよ [045:罰]
キッチンに金木犀は紛れこみ朝のあなたを最強にする [046:犀]
終わらない話をしたいふるさとはそれでも同じ色をしていて [047:ふるさと]
たたんだら集まる水にお別れを告げてあなたは謎めいていく [048:謎]
嫉妬とは気付かなかった部屋中に敷きつめられた手紙をひらく [049:敷]
眠いんじゃないと言いきり窓際に活路をさがす夜のあなたは [050:活]
囲われてしまいたかった水底に泡を吐きつづけている希望 [051:囲]
グッピーの世話をしている夕暮れに足りないものを列記していく [052:世話]
罪のないあくびを殺し渋滞に死ね、死ねってうつくしい口 [053:渋]
「どぶ川を越えるときにも武士のマネしたら許してあげてもいい」と [054:武]
大声で叫べばきっと立ち止まるだろう踏み切りまえにあなたは [055:きっと]
晩酌をふたりのためにする日にもちいさな棘が抜けないでいる [056:晩]
散ることは運命という手のひらに紐解かれゆくわたしのおわり [057:紐]
結晶になるはずもなく空き瓶へ涙を落とすあなたのおわり [058:涙]
屋根裏に置いた貝殻たちばかり心配してはもう上の空 [059:貝]
凝りすぎた言葉はプレゼントではなく嫌味なんだと言えないでいる [060:プレゼント]
企みを裏切る強さ 浜辺ならお城が砂に戻るまで踏む [061:企]
純粋な善なのだろうあなたから地軸を歪めそうなひとこと [062:軸]
笑うなよ あんまり久しぶりだからあなたか夢か見分けられない [063:久しぶり]
神無月 おやつを奪い合いながら意志とはあなたを離さないこと [064:志]
騒ぎつかれて眠ってしまう酢醤油は邪道とそこは譲らないまま [065:酢]
自業自得だと認めずにひたすらに切らした息をととのえるひと [066:息]
連想をしていくうちに迷いこむ未来 鎖の次はさよなら [067:鎖]
耐えていたことが過ち いつからか巨大になったあなたを畳む [068:巨]
辛すぎたカレーのせいでいっさいのやる気が消えたことにするひと [069:カレー]
どこまでも負けず嫌いな性格の宴会芸に付き合っている [070:芸]
生きたって逃げ出したって籠のなか小さく洩れる光にすがる [071:籠]
汚れたら汚れたままで愛されて出口は狭くなってしまった [072:狭]
開いたら二度ともとには戻せない書庫に眠っている物語 [073:庫]
連絡は事務的にすぎ無精ひげだらけになった顎を眺める  [074:無精]
平熱に溶けゆく氷いつだってあなたは恋のうしろを歩き [075:溶]
乱暴につかんだ桃は頼りなく壊れることは悟ることだと [076:桃]
冬道を転がるときにうつくしい音を全身から放つひと [077:転]
家じゅうを捜査範囲に指定してあなたが追った卵のゆくえ [078:査]
オリオンのそばの銀河は熱を帯びどうしてここにいるのかと問う [079:帯]
たわむれている間にも抜け目ないふたりはエスカレーターのうえ [080:たわむれ]
瘡蓋をはがせば秋が香りたつように開いた傷口の赤 [081:秋]
すこしだけ怖い眼をした苔のうえふたりは湿り気を帯びていく [082:苔]
かまってと言わないままに邪魔をして怒ると笑う、笑うと怒る [083:邪]
夢はなにって聞けばいつでもきらきらの大西洋をわたる鳥たち [084:西洋]
さみしさをなぜ背負うのと亀に問い甲羅をそっと撫でているひと [085:甲]
片方の腕を差しだしあなたからこぼれるお告げを拾って暮らす [086:片]
むずかしいことは言わないようにしてチャンスと言えば目を輝かす [087:チャンス]
花畑みたいだねって画用紙のひとつひとつが訂正のあと [088:訂]
見た夢を覚えていないはじめから喪うために生まれたように [089:喪]
許されることを知ってて悪そうな舌をのぞかせている唇 [090:舌]
締まらない顔をあやまりふやふやと誕生日とは魔法の言葉 [091:締]
こたつからわたしを殺す狙撃手の目尻に隠しきれない童心 [092:童]
殺さないでいてほしいんだ 条件を揃えてやっと午後の踊り場 [093:条件]
音もなく負担となってゆっくりとあなたを海に沈めてしまう [094:担 ]
おだやかな週末もあり雨降りの音は樹木にしみこんでいく [095:樹]
いなくなるための準備をするように背伸びしながら窓を拭くひと [096:拭]
ジャンプして帽子を奪い得意げに尾を振っているあなたの背中 [097:尾]
激情を畳んでしまう場所がなく ごめん あなたに投げ捨てている [098:激]
着信音ひびくベンチに声はなくあなたは趣味をひとつ隠した [099:趣]
どうせなら無茶な話でさよならを千年先のあなたに幸を [100:先]

超即詠なので目も当てられない短歌も山ほどありますが平にご容赦を〜。
最後までお読みいただきありがとうございました!

田中ましろ


posted by 田中ましろ at 22:27| Comment(4) | TrackBack(0) | 題詠blog2012 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

完走報告(田中ましろ)

例年通りおかしなペース配分になりましたが無事に完走できましたっ!
走り出した時点では基調1首+100首の連作になるはずが
たぶんそんなことも言ってられない惨状です。
一応設定はすべて統一して詠んでいるので選べば連作になるかもしれません。
ちょっと時間をおいてから見直してみようと思います。
とにかく走りきれてよかった。去年のリベンジが果たせました。はふー。


posted by 田中ましろ at 17:34| Comment(0) | TrackBack(3) | 題詠blog2012 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

100:先(田中ましろ)

どうせなら無茶な話でさよならを千年先のあなたに幸を

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099:趣(田中ましろ)

着信音ひびくベンチに声はなくあなたは趣味をひとつ隠した


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098:激(田中ましろ)

激情を畳んでしまう場所がなく ごめん あなたに投げ捨てている


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097:尾(田中ましろ)

ジャンプして帽子を奪い得意げに尾を振っているあなたの背中


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096:拭(田中ましろ)

いなくなるための準備をするように背伸びしながら窓を拭くひと


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095:樹(田中ましろ)

おだやかな週末もあり雨降りの音は樹木にしみこんでいく


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094:担(田中ましろ)

音もなく負担となってゆっくりとあなたを海に沈めてしまう


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093:条件(田中ましろ)

殺さないでいてほしいんだ 条件を揃えてやっと午後の踊り場


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092:童(田中ましろ)

こたつからわたしを殺す狙撃手の目尻に隠しきれない童心


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