2015年05月09日

かばん4月号「鳥と雨音」(連作8首)


『鳥と雨音』

 ともし火の揺れる参道ゆくような眼差しを持つ夜のあなたは

 囁きと思えば雨の降りしきる音 沈黙を震わせている

 ゆるやかに波打つ毛先遊ばせるあなたの細い指になりたい

 声は風 届けば消える風でありいま口元を飛び立っていく

 「自由ってかくかくしてて自由って感じじゃないわ、そう思わない?」

 鳥を想う 翼を持てば鳥なりの悩みもあるだろう青い空

 春用のブーツを履いた一日を語って雨の音を忘れる

 ぼくたちは椅子の軋みに囚われる人としてこの夜を超えるよ


(かばん2015年4月号掲載)
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かばん3月号「冬の微熱」(連作8首)


『冬の微熱』

 はじめてのはじめましてに戻れない扉を開くぼくらの強さ

 寒空の澄んだ重さよさらさらと枯れ葉を追えば地を這うばかり

 雪解けに音はなくその雪の死を語りつごうとする人もなく

 ブランコの冷えた鎖を軋ませて近づく/離れる占いのよう

 内側に火を纏うひと火を零すぽつりぽつりと口ひらくたび

 丸まった鳩を散らして君は行く冬の微熱のその真ん中を

 手に触れる手にそれは波それは花伝わらないよう伝える遊び

 明るめの近い未来を持ち寄ってそこにだけ春生み出している


(かばん2015年3月号掲載)
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かばん2月号「空を見ている」(連作8首)


『空を見ている』

 カイパーベルト生まれた場所をあとにしてどこまで行くか僕らは競う

 ゆるやかに低気圧へと向かう日のあなたにもらう大量の棘

 笑ってる人たちみんな灰になれ流れ星とは死だ 壮絶な

 たとえば土の記憶を辿るようなこと ねえわたしたちどこからきたの

 踊ったりしてたんだろうペルム紀はペルム紀なりの愛を奏でて

 たましいの位相差として熱のない諍いつづく冬の地下鉄

 空を見ているアスファルトはきっと星じゃなく淋しい青の空を見ている

 今まさに大量絶滅期だという星の害獣として僕たち


(かばん2015年2月号掲載)
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かばん1月号(2首)


詠草2首

 教室に浮かぶ金魚を掬いとるあなたは秋の空気のなかに

 夜という夜は廊下に溶け込んで踏むたび影として顔を出す


(かばん2015年1月号掲載)

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2014年12月26日

かばん12月号「日々に息づく」(連作8首)


『日々に息づく』

 網棚に忘れ去られた新聞の文字がかすかに滲む終点

 長月の雨に誰かが下を向きそれを見てまたうつむく誰か

 風光るような往来だとしてもそれに気付ける人かどうか、だ

 じいいいと見つめていればうっかりと動いてしまいそうな人形

 みんなしてトントン拍子に踊らされ踏み外すまで笑って過ごす

 覚えてる覚えています祝福が温かすぎて痛かったこと

 すみやかに所定の位置へ戻りなさい 右手 三日月 左心室 夢

 安穏を求めたら朝 コーヒーの匂いの満ちるリビングに着く


(かばん2014年12月号掲載)

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かばん11月号「夏果て」(連作8首)


『夏果て』

 長月の浜辺へつづく林道に夏の名残を探して歩く

 おかえりと言うにはすこし早すぎるあなたの帰還にさわぐ海鳥

 白波を生む海風に滑らかな髪をひたすら梳かせる遊び

 堤防の茎のみじかい花のことあなたは語るその健気さを

 波打ち際は死に近いからいっせーのーで、でつないだ手を突き上げる

 海岸にふたりはひとつの点だろう空気の坂を飛行機が行く

 上昇気流 上昇気流 夏果ての雲の終わりに気付かないまま

 砂浜の砂が靴へと滑り込むように僕らは友達になる


(かばん2014年11月号掲載)

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かばん10月号「花に会う」(連作8首)


『花に会う』

 幾千の灯りを縫って歩みゆくあなたの背を見る雨上がり

 言の葉は錨 ふたりが薄闇にはぐれぬように落として進む

 一度閉めた扉をそっと開いたら溢れる花や雨のあること

 ろうそくの静かな火照り連なって空へと向かうような丘陵

 丸い水面覗き込んだら微笑んで僕らは小さな乾杯をする

 毎日は有限だから少しだけあなたと急いでもいいですか

 何もないところに花が咲くのです悠然とその目を光らせて

 気まぐれに揺られることの心地よく肩にかすかなあなたの重み


(かばん2014年10月号掲載)

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2014年10月01日

かばん9月号「工業団地」(連作8首)


『工業団地』

 道路沿いには朽ち果てた週刊誌なお朽ち果てている最中の

 触れてくるぬるい夏風この夏の僕たちのハイライトに まさかね

 人のいないグラウンドにて足跡はたたずむ海底遺跡のように

 子供たちから夏はあふれて迫り上がる入道雲のてっぺんへ、道

 蝉の声やまない雨のようなこえ反芻しながら生きる誰もが

 工場に休日はなくぽつぽつと予感のごとき灯は点りだす

 街と山に境界はあるのだろうか 思い出せない恋と友情

 車から降りてひとつの夕暮れをレンズの奥で特別にする


(かばん2014年9月号掲載)

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かばん8月号「また、夏」(特別作品・連作12首)


『また、夏』

 繰りかえす夏の痛みにきらきらと心はいつも傷つきたがる

 いちまいの布としてある夏空をあなたは青い夢にたとえる

 立ち止まるきっかけはなくえんえんと続く水際えんえんと行く

 吹かれるがままに棚引く短めの髪に手を その手に手を添える

 ささやかな火種を持っていることも喜びめいて夏のうわつき

 甘い声 圧力 憂い 湧きあがる雲を指さすときの共振

 つないだ手を振りつつ歩くお互いのあいだに線を何度も引いて

 願ってもそちら側にはいけなくてあたりいちめんすっかり寂しい

 髪の毛に西日を引火させながら輝く星の危うさを言う

 でたらめな童話を作る遊びにも幸せな結末(ハッピーエンド)は見つけられない

 夕凪を死と言いかえて海沿いの公園に死がありふれている

 夏を呼ぶ仕草のように木々は揺れどこまでが夢だったのだろう


(かばん2014年8月号掲載)

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2014年08月15日

かばん7月号「夢で会う人」(連作8首)


『夢で会う人』

 おもむろに月の名前を聞いてくる人とダンスの続く真夜中

 祝福をひとつ言葉にするたびに生まれる闇を持て余しつつ

 誕生日的にはぼくら相性がいいってさ嘘じゃないのに笑う

 わーいわーいリズムが狂いはじめてるけれど止めない変な踊りを

 いつまでも喝采はないそのかわり息の合う両足のよろこび

 朝のため傘差し出してあげたのにいらないよって拒まれている

 不自由を楽しんでいる危うさを諭してもなお終わらない旅

 夢で会う人に伝える約束を忘れて夢に佇んでいる


(かばん2014年7月号掲載)

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2014年06月21日

かばん6月号「羽根の面影」(連作8首+12首)& WEBコンテンツ


『羽根の面影』

 空を見る癖がなおらず雨上がり両の腕(かいな)をひろげる少女

 背中には羽根の面影 触れるから気付けばすこし動かしてみて

 スカートは尻尾 ときおり風に揺れ遠近感を狂わせている

 花を見れば花を欲しがる猫として生きているあなたは美しい

 目に星を無数の星を宿らせてメテオストライク 夏の風

 空に近いところは人を微笑ます 行けガラス張りエレベーター二号機

 うす雲を切り裂きながら飛行機はあらたな雲を吐きだして飛ぶ

 夏空に白いペンキをぶちまけてあなたの夏の雲になりたい


(かばん2014年6月号掲載)


かばん6月号では
昨年上梓しました歌集「かたすみさがし」の特集を組んでいただいています。
・自選30首
・佐藤通雅さん、中島裕介さん、山田航さん、だいたひかるさん、陣崎草子さんによる評
・アンケートを元にしたインタビュー記事
・ましろ自身によるネット上の短歌イベント紹介記事
など、非常に充実した誌面でした。
こんな素敵な誌面を編集してくださった鳥栖さん、櫛木さん、
そして評をくださった皆様、本当にありがとうございました!

なお、自分で作った記事のおまけとして上記連作に12首加えた20首連作を
WEB技術により写真と半アニメーション化させた作品を制作しました。
こちらが本当の連作「羽根の面影」です。
ご覧いただけましたら幸いです。
http://www.kokoiru.com/para/


20首連作『羽根の面影』

 空を見る癖がなおらず雨上がり両の腕(かいな)をひろげる少女

 背中には羽根の面影 触れるから気付けばすこし動かしてみて

 たんたんと夢を切り貼りする仕事みたいに花を手折ってはこぶ

 スカートは尻尾 ときおり風に揺れ遠近感を狂わせている

 ウミネコの目が恐ろしい港湾にはろばろひびく波音と声

 ふわ、と空気が温められて浮き上がるそんな仕組みの幕開けだった

 五本しかない指であなたを捕らえても溢れるでしょうそのすき間から

 空に近いところは人を微笑ます 行けガラス張りエレベーター二号機

 ペットボトルに新緑まるく閉じ込めて夏の分子が滲むのを見る

 花を見れば花を欲しがる猫として生きているあなたは美しい

 まなざしは日差しより濃くまっすぐにsuch a little girl 夏のひと

 心臓を人に捧げる感覚を知ってるでしょう 手を差し伸べて

 目に星を無数の星を宿らせてメテオストライク 初夏の風

 光源は孤独のひとつ公園のひかりは木々に散り散りとなる

 うす雲を切り裂きながら飛行機はあらたな雲を吐きだして飛ぶ

 風に溶けた緑が服に染みついて全身夏になる僕たちは

 湿り気をしずかに湛え布地にはすべてを許す境界がある

 夏空に白いペンキをぶちまけてあなたの夏の雲になりたい

 走れ 夢をさんざに散らしつつ休息地までまっすぐな道

 つよい陰 いつか離れるだろう人 寂しいくせに笑ってしまう


(かばん2014年6月号特集記事おまけWEBコンテンツ)


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かばん5月号「春の奔放」(連作8首)


『春の奔放』

 交差点から波立っていくような陽光に春は紛れています

 地面から命すべてに投げかける優しさとして緑の息吹

 温もりが生地のすき間をすり抜けるそういう風にして傍にいる

 さよならに線を引かずにくる春の白いシーツが風にたなびく

 開かれていくのは季節(君じゃない)マヨネーズかけすぎたと笑い

 歌いたいときに歌えばいいんだよ永遠みたいにブランコ漕いで

 うららかな光に罪を押しつけて僕たちの生き方は奔放

 旅行者の仄寂しさに近いかもしれないね 君を失うことも


(かばん2014年5月号掲載)

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2014年04月20日

かばん4月号「叙情のためのエチュードZ」(連作8首)


『叙情のためのエチュードZ』

 踏まないでいてくれないか桜花風花きれいなままで死にたい

 いつだって掴みどころのない答えだったね物語をなびかせて

 しなやかさ誇らしくある髪先を風に あなたをここに 会いたい

 祝日は祝わなくてはいけないよそれぞれに花持ち寄る四月

 去る人の背にささやかな春を見る春の絵画に憎しみはなく

 悪だくみのひとつをいまも覚えてる木々にひかりの飛び散るような

 手招きを抱擁として新しいものに憧れるんだね 人は

 空から見える堤防を覆うようにして春は来るその春に名前を


(かばん2014年4月号掲載)

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かばん3月号「叙情のためのエチュードY」(連作8首)


『叙情のためのエチュードY』

 マスクから溢れた息にお別れと祈りを告げてまた次の息

 春の匂いと冬の匂いを嗅ぎ分けよ鼻を寄せあう口実として

 奪いあう遊びのようにお互いの手を褒めあって明け方の街

 アスファルトに張りついている陽光を剥がして壜に詰めてもいいよ

 首すじに傷は結露のごとくありあなたは何も知らなくていい

 地雷原まっすぐ進むための目をみんなが持っています ひらいて

 カーブミラーはあくまでも佇むもので春をただしく映し出せない

 晩冬は早春と呼ぶことにする とかくあなたは早春の人


(かばん2014年3月号掲載)

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2014年03月04日

かばん2月号「叙情のためのエチュードX」(連作8首)


『叙情のためのエチュードX』

 ガラスごしあなたは顔を傾けて冬、と小さく口を尖らす

 ぬくもりだろうよろこびだろう冷えるほど会いたくなってしまうのは何故

 木枯らしを飼っているとは知らなくてごめん温め合ってしまった

 まなじりに風はゆっくり吹きだまりこちらジェンガのような日々です

 缶コーヒーが世界をすこし温めて死にゆく朝に見る春の夢

 えりあしの雪はあなたのためだけに降ってきた雪だからね 笑って

 雲がうすく伸ばされ消えるあんなふうにいなくなれたら幸せなのに

 電柱に根のないことの悲しみをあなたは歌にして口ずさむ



(かばん2014年2月号掲載) 


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かばん1月号(2首)


詠草2首

 動かない点になるべく僕たちは問題が解かれるのを待った

 鳥をさばく魚をさばく君の手がわたしに触れて高揚は来る


(かばん2014年1月号掲載) 

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2013年12月15日

かばん12月号「冬晴れを吸う」(連作8首)


『冬晴れを吸う』

 咲く前に花のうつくしさを言うような遊びかさねて三月はくる

 火を喰らうような夕暮れここからの景色を覚えておかなくてはな

 五線譜をちいさく揺らし来る風のひとつがお前 携帯がなる

 春雷のそのものとしてきみの言う痛みに疼く下腹部あたり

 この部屋の遠景として立つような励ましも届かない分娩台横

 声を出すものを命と呼ぶのなら微かに命 二分が過ぎる

 冬晴れを吸いこんだのだ仕方ない次第に赤みさしていく腕

 持ち込んだ詩集の終わりのびやかにお前は四肢を投げ出して泣く



(かばん2013年12月号掲載) 
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かばん11月号「秋へと続く風」(連作8首)



『秋へと続く風』

 珈琲のかおりを髪にくぐらせたきみに問われてしまうこれから

 嵐へと向かう微熱を手のひらにのせて差し出すきみの悪戯

 あさっての話に花を 雲梯はふたりを拒むように傾く

 きみの漕ぐ錆びたブランコゆうゆうと僕の背丈をこえて まぶしい

 水壁は指のすきまを抜け落ちて変化を恐れるなって誰かの言葉

 噴水にあわせて跳ねるスカートの白さいよいよひかりをはじく

 寂しげな駅にふたりの声だけが馬鹿みたいだな 愛しています

 肩までの髪をしずかに開かせるこれは秋へと続く風だね



(かばん2013年11月号掲載) 
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かばん10月号「観察日誌」(連作8首)


『観察日誌』

 あたらしい癖を見つける早朝の風にふくらむカーテンのなか

 丸い目をいっそう丸くする人よ 進化は愛をこいねがうこと

 ひざ六つ並べてつくる空間に風花の舞うような微笑み

 似てはならない似てはならないよ冬の日の塩基ならべる遊びの果てに

 大人には見えないものか天井のある一点を見つめるお前

 手の届くものから順に捕まえて捕まえたことを忘れて放す

 みなひとはやわらかな熱を持つのだと気付くお前を抱きあげるとき

 花ひらくひかりは遠くはじめてのお前の夏がもうすぐ終わる



(かばん2013年10月号掲載) 
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2013年10月07日

かばん9月号「秋へ」(連作8首)


『秋へ』

 さりげなく来ていた春の一歩目に名前をつける夏のふたりは

 月島は夢の切れはし重力に逆らうような言葉かわせば

 公園のすべての青を洋服に吸わせて夏のあなたは跳ねる

 告げる名をきらきらさせるさざ波に流されたってよかったのだが

 はじめての最後を思う階段をのぼるときみな俯くように

 種なし葡萄に種のないこと水ぎわに落ちたね生まれ落ちてしまった

 ビルに取り囲まれ影がなくなって僕たちはなにものにもなれない

 秋の気配にわかに沁みる夜風にうつくしい死にかたの話を



(かばん2013年9月号掲載) 
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2013年08月15日

かばん8月号「夏の影」(連作8首)


『夏の影』

 木々を縫う風に晒され八月のなにものにも代えがたい衝動

 昼ひなか空に広がる流線を数えてきみの駆け足を追う

 笑えればいいってものじゃないけれど夏の影踏みあってほぐれる

 積乱雲は祈りのかたち示しつつ真夏ふたりに降る水しぶき

 転がって天地逆さになる午後に意味をもとめてしまわぬように

 頬骨を光らせながら駆けてきてそのまま抜けていくような人

 すぐ溶けるものにさよなら繰りかえし慣れていくんだろう別れにも

 屋上へ向かう階段ゆくような軽さよ きみのかばんが弾む



(かばん2013年8月号掲載)
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2013年07月16日

かばん7月号「わたしと、わたし以外のすべて」(連作8首)


『わたしと、わたし以外のすべて』

 いちまいの羽を落として(これは孤独)もう水鳥は行ってしまった

 待つ人のいる人の目のやわらかく そこに断層面を見つける

 八月の蛇口すべてが空をむき神様さえも撃ちぬくように

 みんなみんな案山子に見えて夏雲のむこうの青へ視線をおくる

 色のない他人の海がひろがってわたしとわたし以外だ 世界は

 まるくなる鉛筆の先 触れ合えば人もわずかに侵食しあう

 海だったころのわたしよ人波のなかで目覚めてしまってはだめ

 ひらく傘とじる傘あり地図上は平和に満ちているのにな 雨



(かばん2013年7月号掲載)

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2013年06月26日

かばん6月号「叙情のためのエチュードW」(連作8首)


『叙情のためのエチュードW』

 幸せの果ての惰性と知りながら手をとり春の回廊(コリドー)をゆく

 六月の現実として降る雨のしずけさ 決意するということ

 遠まわり 買ったばかりの画用紙に名前をつけるあなたとともに

 むくむくと笑いころがる花冷えの丘では雲を数えたりして

 光る海でしたあなたは両腕をひらいて雨をともだちと呼ぶ

 点線を破線と呼んだくるしさのひかりにきっと溺れてしまう

 銃弾をひとつ見つける週末に愛は死んだのか 答えを

 歩きだせ誰かと生きていくときの春には自動ドアが似合うね



(かばん2013年6月号掲載)

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2013年05月24日

かばん5月号「HELLO」(連作8首)


『HELLO』

 暗闇を抜けて外気に囚われた不安にうまく泣けないお前

 肺にまで溢れる水の重たさに浮かぶ命をつむぐ医師の手

 生きなさいと囁く声のあることを知ってお前はこちらに落ちる

 響く声ひびく部屋ごと朝がくるその真ん中に心臓を置き

 見開いた目は淀みなく問いかける世界はうつくしいものですか

 長い時間を生きてきたのだ手も足も複雑すぎるほどの凹凸

 純白の似合う身体に千の笑み受けてお前は花道を行く

 はじめての雨音を聞く三人のそれぞれにはじめての雨音



(かばん2013年5月号掲載)

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2013年04月23日

かばん4月号「ある平和」(連作8首)


『ある平和』

 皮膚ごしに触れてお前の伸びやかな腕を受け止めている三月

 春の日に手を振っている向かい合うことは誰かに背を向けること

 ある平和としてリビングいちめんに玩具広げるみたいな会話

 諦めと覚悟は似てる両腕がいのちを包むかたちになって

 躊躇する間も与えない歳月の怒涛 ああ こんなにもまぶしい

 パラダイムシフトと呼べばうつくしくわたしは水葬されてしまうね

 跨線橋からの夕焼けはしゃいでるはしゃいでるってただの微動を

 いのちいのちいのちお前を抱くことでわたしは次の世界にいくよ



(かばん2013年4月号掲載)


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2013年03月19日

かばん3月号「春に待つ」(連作8首)


『春に待つ』

 待ち人は来ましたかって街じゅうの人に問いたい初春の駅

 降る雨はかなしいと言う ふたりして見ていても雨はかなしいと言う

 春の波としてあなたはゆっくりと深くわたしに押し寄せてくる

 ちぎったらもう戻らないエイヒレを分け合うことも答えのひとつ

 茶化しあいながら大きな布を織るように言葉でことばを探す

 お湯割りの焼酎ぬるくなるまでを核心以外のことにまみれて

 距離感はふたりで決める約束のまま冷静な手を触れあわす

 やがて去る波に寄り添う未来図を帰路のあなたの顔も知らずに



(かばん2013年3月号掲載)

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2013年02月17日

かばん2月号「叙情のためのエチュードU」(連作8首)


『叙情のためのエチュードU』

 硝子から染みこむ冬をたしかめて大げさに大げさに 来たよね

 犬になる 真冬の腕がのびてきて僕らはもう抗いようもなく

 ふゆぞらに向かって爆ぜる子供らの背にあざやかな光のおわり

 遺伝子のせいじゃないかな点滅を見たら駆けだす朝のひとびと

 グアテマラの雨を思ったうすけむり燻ぶるような駅前に出て

 新雪をためらわず踏むあなたには見えない朝のかたすみに立つ

 手遅れとわかってからが戦いの、ため息はなんと美しいのか

 逆立ちをしても落ちてはこないから空よそのまま生き続けなさい


(かばん2013年2月号掲載)

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かばん1月号2首+新春題詠「夜」

※1月号は名刺交換号ということでタイトルなしの2首掲載です。


初雪にどちらが先に気付いたか言いあらそって朝焼けの坂

ゆるいつながり残酷すぎるその距離のおはようもさよならも抜け殻


<2/17追記>
新春題詠「夜」提出作

見えすぎるあなたのとなり臆病な夜のきりんを想って暮らす

(かばん2013年1月号掲載)

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2012年12月17日

かばん12月号「いつもと同じ夕暮れのなか」(連作8首)+回文短歌1首


『いつもとおなじ夕暮れのなか』

 安眠と呼べるだろうか麻酔から目覚めるまでの父の不在は

 取り出した臓器は医療廃棄物/こちらがおとうさまの胃です

 重力にさからう術を失って胃はだらしなく手にのしかかる

 蛍光灯に胃を晒しては斑点をかぞえる医師のにぶいまなざし

 たくさんの嘘をあなたについたけど大丈夫って嘘は初めて

 にんげんのかたちを保つ縫い目から滲む水 そうだ生きたいのだ

 生きるとは何を残すかではないと父は言う 何も残さないと言う

 心臓の近くにひとつ空洞は生まれてみんなみんながうさぎ

+++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++
<誌面企画への出詠>
○山田航さんの回文をひとつ選び短歌もしくは散文を返す企画に寄せて
(山田さんの回文)
明治時代、添い遂げしわが妻小松川シゲと急いだジジイめ

(回文へのましろ返歌)
 秋刀魚にて飯食う母の意地張れば爺の歯は浮く しめて二万さ
 【さんまにてめしくうははのいじばればじいのははうくしめてにまんさ】

(かばん2012年12月号掲載)

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2012年11月19日

かばん11月号(連作8首)


『はるか草原』

 手のひらはつないだ日から中心になってふたたびはるか草原

 早足に行く人たちの生み出した渦に居場所を見つけてしまう

 ビル街に人知れず在る椅子ひとつ減って椅子取りゲームはつづく

 おしなべて街は秋雨 逃げ道をうしなうことが生きることだと

 手を振ったあとに出くわす夕暮れに肯定されて立つ交叉点

 いざというときは名前を呼べばいいそのために名を付けたのだから

 パンの耳パンの耳パンの耳パンの耳 しあわせの白い大地よ

 探しもの見つけたように秋のあさ書架の隙間に手を差し入れる

(かばん2012年11月号掲載)

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