自選10首を太字にしておきました。
もうきっとあなたのペース ごくぶとの生春巻きをひといきに噛む[001:春]
青空と暇とあなたを持てあます午後 沈黙は孤独に近い [002:暇]
公園の桜はまっている君が振り向くまえに後ろから抱く [003:公園]
ありったけの罠を笑顔に詰め込んだ容疑で君を連行します [004:疑]
恋人はいないとすこし目をそらすあなたの嘘に便乗します [005:乗]
従順なサインカーブの腰つきじゃ物足りなくて始めるカオス [006:サイン]
読みかけの本は床へと落ちる まだ決めないという答えを出して [007:決]
すぐにまた会えると嘘をつく人に抱かれた南北線目黒駅 [008:南北]
ベランダの菜園にきゅうりの花が咲いたらきみにメールを送る [009:菜]
かけらから作った僕のクローンも遺伝子レベルであなたに堕ちる [010:かけら]
メールではいまだに敬語を使ってる 青いぼくらは抱きあい眠る [011:青]
あまりにも穏やかすぎる夜 孤独こどくと時計の針がわらう [012:穏]
つよがりじゃない(元気だよ)つよがりじゃない(君はどう?)つよがりじゃない [013:元気]
いじわるに間接キスを迫られてウォッカロックに喉を焼かれる [014:接]
セガールも少年だった 忘れゆくものを詰め込み閉める抽斗 [015:ガール]
静寂が凛と切り裂かれるを待つ美術館にて君に触れたい [016:館]
君は手に指輪光らせ微笑んで「最近どう?」ってナイフで刺した [017:最近]
飲み込んだ南京錠の鍵 愛を夢と呼ぶから歪むのでしょう [018:京]
鍋底で焦げつく黒いかたまりは押印をした日からとれない [019:押]
指先は気まぐれに揺れ試されているのでしょうか 猫っ毛の女(ひと) [020:まぐれ]
かわいげのある女狐になりたくて「惚れちゃだめよ」を口ぐせにする [021:狐]
めくれずにいるカレンダー 3月のきみの優しい目を思いだす [022:カレンダー]
サンシャイン通りに響く鎮魂歌を否定しながら雨、降りしきる [023:魂]
あらがっても横綱相撲 まわりこみ寄り倒されて夜におぼれる [024:相撲]
鎖骨にて環太平洋造山帯は途切れてなだらかに丘 [025:環]
穢れなど知らない君の丸文字をていねいになぞるような口づけ [026:丸]
街路樹がそわそわしてる 屋上でドナドナを歌うのは止しなさい [027:そわそわ]
耳の裏にできた陰をなぞりつつ聞けないことをひとつ持てあます [028:陰]
大根を利用しました マンネリにならないためにいまできること [029:利用]
あいまいな答えが欲しい したたかに天秤を狂わせる抱擁 [030:秤]
SFを「すこしファイト」と読みながら秋には秋のふたりが続く [031:SF]
ゴーヤチャンプルー炒りつつ苦虫をおいしく食べるレシピを探る [032:苦]
進んでも立ち止まっても切なくて青いみかんの青さ、まぶしい [033:みかん]
恋人になれないならば孫がいい死ぬまでちゃんと愛してほしい [034:孫]
食べる寝る生きるに混じる大好きを砂金みたいに君で集める [035:金]
絶対に手をつながないのが正義ならばふたりで花を植えよう [036:正義]
山奥にひとりで住んで遠吠えのように愛してましたと叫ぶ [037:奥]
愛してました 空耳は風のせいだから君が傷つくこともないだろう [038:空耳]
悲しみの悲しみ方を忘れたら怠け者にも影は差し込む [039:怠]
ひび割れたレンズでしか撮れない写真 泣いてる君がとてもきれいだ [040:レンズ]
落とすたび内側で折れる鉛筆の芯 強がったことを許して [041:鉛]
はつなつの考古学者が掘り当てるかつて愛情であった化石[042:学者]
青空を剥がせば大きなおじさんが照れ笑いする世界に行こう [043:剥]
かみの毛も汗も会話も体液も忘れるために干すカーペット [044:ペット]
漂えばイワシの群れにおそわれる秋空は夢でもやるせない [045:群]
永遠にあいこの続くじゃんけんもあなたとならば幸せだろう [046:じゃんけん]
しゅくしゅくと蒸散しゆく思いにて曇るガラスにさよならと描く [047:蒸]
さよならの有効期限は現世です 来世は間違えないで愛して [048:来世]
水曜と土曜の朝はゴミ袋いっぱいになったあなたを捨てる [049:袋]
やわらかな気配が満ちる虹彩に浮かぶあなたの過去を聞かせて [050:虹]
4桁の番号に君は棲んでいてATMは泣くための場所 [051:番号]
「どうだい娑婆の空気は」恋に問いかけてしばらく共に暮らしてみるよ [052:婆]
無邪気さはあなたの強さ 部屋中にぽかんぽかんと好きを浮かべる [053:ぽかん]
まるでもう戯曲 あなたの反応をすべて記した恋愛マニュアル [054:戯]
完璧にアメリカみたいな恋でした あこがれと嘲笑のまじった [055:アメリカ]
改札の前で言葉は枯れはてて無言で振った手があかぎれる [056:枯]
午後5時の台所から滑りゆく飛行機 そっと自由を歌え [057:台所]
脳幹であなたは歌いぬぬぬぬぬ三半規管は狂いはじめる [058:脳]
上空で臆病風が吹いたからそろそろスナフキンが旅立つ [059:病]
さようなら(漫画ならここであなたからちょっと待てよと抱かれるはずだ) [060:漫画]
かつおぶし揺れるリビング 隙のないあなたと冷奴をくずしあう [061:奴]
今朝もまた君の選んだネクタイで首を絞めつつ玄関をでる [062:ネクタイ]
「大仏に恋の相談するような大人になっちゃダメと思うの」 [063:仏]
カストルは三重連星 ふたご座の君はやさしい束縛を持つ [064:ふたご]
肋骨は揺りかごに似て ん、と伸びた背中あたりにあなたは眠る [065:骨]
蜃気楼と夢は似ている 嘆きつついま雛鳥が巣立っていった [066:雛]
封筒は匿名にする 宛名から零れる恋はそのままにして [067:匿名]
ベンチには誰かの怒り ぬくもりが欲しかったのは僕だけじゃない [068:怒]
鏡には笑顔のわたし 晴れわたる孤島にひそむ悲しさがある [069:島]
しわくちゃの白衣が知っている月の裏側のぞくみたいに抱いて [070:白衣]
表紙だけ褪せてしまったノートにて間違えたままの解はかがやく [071:褪]
ひとりだけ違うコップを使ってることを誇らしげに消化せよ [072:コップ]
片方に寄った弁当 まっすぐに生きるべきだと決めたのは誰 [073:弁]
簡単なあとがきだけで締めくくり初恋は行方不明になった [074:あとがき]
バカねっと好きよっは微々たる差です 吐き捨てるように言われても愛 [075:微]
愛してる(閉店間際のスーパーで急いで買ったチョコで許して) [076:スーパー]
君を見るわけにもいかず受け入れた対向車線のライトまぶしい [077:対]
大切なものに印をつけるんだ からだじゅう指紋だらけにしよう [078:指紋]
はじめから落第点の恋をして上昇志向ばかり身につく [079:第]
前向きな徹夜をしよう 確かめるように脱いだり着たりしながら [080:夜]
はらわたを掻きだすシェフの指先を見る さよならは優しさじゃない [081:シェフ]
革命のエチュードを弾く日曜の朝に静かな宣戦布告 [082:弾]
「人生に苦みをプラス!」コンビニに並んだ孤独をひとつ手に取る [083:孤独]
(本当はマンションじゃなくアパートで広尾じゃなくて北千住です) [084:千]
照れたとき語尾がうっすら訛るからわかる もう一度好きだと言おう [085:訛]
道端にぽつぽつと空 雨つぶが青を水たまりに連れてくる [086:水たまり]
似合わない言葉のひとつ華麗なる服がヴァージンロードに映える [087:麗]
じんわりと頑張りすぎたマニキュアが剥がれてもまだ好きなら言うよ [088:マニキュア]
どんなものでも共有したい 洗顔が泡立たない日の無気力だって [089:泡]
モノフォビア 取り残される恐怖にも慣れて呼吸が上手になった [090:恐怖]
一人旅だけどふたりは函館でたまたま出会って抱きあう予感 [091:旅]
メガネってあだ名を捨てる夏の日は夕立みたいに鮮烈な青 [092:烈]
あの冬の全部ぜんぶが君として握り返した手に舞いおりる [093:全部]
奥底に散らばる碁石それぞれが思い出 ノックしてから触れて [094:底]
いつだってないものねだりばかりした君のひとみは黒くて強い [095:黒]
悪口も言えばよかった 交差して生まれる憎悪それから恋慕 [096:交差]
交換のできない身体を持ち寄ってベッドは修理工場となる [097:換]
抱きしめて二の腕あたりからきゅっと愛が溢れる音を聞かせて [098:腕]
答えなどなくていいのにイコールはふたりの時間に終止符を打つ [099:イコール]
くちもとに大福もちの粉をつけ食べてないよと言う君を抱く [100:福]
コメント等、ありがとうございました。
また来年もよろしくお願いします。
田中ましろ