2015年05月10日

うたつかい第16号「いもうとに告ぐ」(連作5首)


『いもうとに告ぐ』

 いもうとの恋の話を聞きながす午後は西瓜の種がよく飛ぶ

 赤い実を選びついばむ鵯(ひよどり)のあれはお前といもうとに告ぐ

 冷えた手を頬に当てられ同じ血の愚かさを言う遠い日の帰路

 ジャングルジムにジャングルはなく月を見るうさぎの首の切れている月

 入道雲に行方を聞けば兄妹は夏の迷子として手をつなぐ



テーマ詠「2」

 それぞれの背にぬくもりのあることをふたりは背中合わせになって


(2013年9月・うたつかい16号掲載)



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うたつかい第15号「共犯者」(連作5首)


『共犯者』

 知らないことは知らないままに春霞かきわけていくような抱擁

 コンビニの袋ふたつが地に落ちてここはもう部屋ではなく荒野

 生きるのは叶わないから息を吐く息を吸う息をまじりあわせる

 うつくしい結末として春の風たっぷりふくむシャツを見ている

 共犯者めいて笑ってそれぞれの理由を聞いてしまわぬように



テーマ詠「植物」

 菜の花を自分のために茹でながら名もなき今日をあなたで満たす


(2013年7月・うたつかい15号掲載)

posted by 田中ましろ at 00:37| Comment(0) | TrackBack(0) | 日常詠 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

うたつかい第14号「DOLLS」(連作5首)


『DOLLS』

 とびだしちゅうい役の子供が轢き逃げにあったと町内会のお知らせ

 待つことを存在意義にしたせいでハチ公にもう自由などない

 ペコちゃんの舌を奪ったポコちゃんが素知らぬ顔で笑みをふりまく

 後継が育たんのです夕焼けにカーネルサンダースは今日も立つ

 吊るされたまま朦朧とさるぼぼのあれが最初の快楽でした 



テーマ詠「はじまり」

 ひらがなにまみれてあそぶ休日のきみがおしえてくれるはじめて


(2013年4月・うたつかい14号掲載)

posted by 田中ましろ at 00:33| Comment(0) | TrackBack(0) | 日常詠 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする