2015年05月13日
010:玉(田中ましろ)
砂浜に椅子を並べて(ここが玉座)意味のないことばかり愛した
009:異(田中ましろ)
異体字の多さはすこし眩しいねわたなべさんってひらがなで呼ぶ
008:ジャム(田中ましろ)
無茶したね僕たち史上最大に馬鹿だったねとジャム塗りながら
007:度(田中ましろ)
ブレーキを踏まずに曲がる危うさに何度も刻む今日の日のこと
006:婦(田中ましろ)
ワンピース夏に晒せば透きとおり夫婦のように似てゆくすべて
005:中心(田中ましろ)
右耳に波 左耳には鼓動 あなたは僕の中心となれ
004:栄(田中ましろ)
海に住む生き物の名を挙げていく繁栄のあとの窪地に、ぼくら
003:要(田中ましろ)
サンドウィッチ頬張りながら重要なことをさらさら口から零す
002:急(田中ましろ)
ゆらめきのひとつを壊す急行が通過していま聞こえない声
001:呼(田中ましろ)
新緑があなたの声に呼応して風だったんだ夏の晴れ間に
参加します!(田中ましろ)
ものすごーく久しぶりに参加します。
100首連作を作る気持ちで。よろしくお願いします。
100首連作を作る気持ちで。よろしくお願いします。
2015年05月10日
うたつかい第16号「いもうとに告ぐ」(連作5首)
『いもうとに告ぐ』
いもうとの恋の話を聞きながす午後は西瓜の種がよく飛ぶ
赤い実を選びついばむ鵯(ひよどり)のあれはお前といもうとに告ぐ
冷えた手を頬に当てられ同じ血の愚かさを言う遠い日の帰路
ジャングルジムにジャングルはなく月を見るうさぎの首の切れている月
入道雲に行方を聞けば兄妹は夏の迷子として手をつなぐ
テーマ詠「2」
それぞれの背にぬくもりのあることをふたりは背中合わせになって
(2013年9月・うたつかい16号掲載)
うたつかい第15号「共犯者」(連作5首)
『共犯者』
知らないことは知らないままに春霞かきわけていくような抱擁
コンビニの袋ふたつが地に落ちてここはもう部屋ではなく荒野
生きるのは叶わないから息を吐く息を吸う息をまじりあわせる
うつくしい結末として春の風たっぷりふくむシャツを見ている
共犯者めいて笑ってそれぞれの理由を聞いてしまわぬように
テーマ詠「植物」
菜の花を自分のために茹でながら名もなき今日をあなたで満たす
(2013年7月・うたつかい15号掲載)
うたつかい第14号「DOLLS」(連作5首)
『DOLLS』
とびだしちゅうい役の子供が轢き逃げにあったと町内会のお知らせ
待つことを存在意義にしたせいでハチ公にもう自由などない
ペコちゃんの舌を奪ったポコちゃんが素知らぬ顔で笑みをふりまく
後継が育たんのです夕焼けにカーネルサンダースは今日も立つ
吊るされたまま朦朧とさるぼぼのあれが最初の快楽でした
テーマ詠「はじまり」
ひらがなにまみれてあそぶ休日のきみがおしえてくれるはじめて
(2013年4月・うたつかい14号掲載)
2015年05月09日
寄稿・短歌研究「てのひらの歌」新作3首
『てのひらの歌』新作3首
生命線なぞって今日を探してる君にもうすぐ奪われる今日
水かきの退化した手にさくらさくら春の呼吸にさくらは混ざる
加速する月日をおもう三月のバスの窓には手のひらの波
(短歌研究2015年4月号掲載)
かばん4月号「鳥と雨音」(連作8首)
『鳥と雨音』
ともし火の揺れる参道ゆくような眼差しを持つ夜のあなたは
囁きと思えば雨の降りしきる音 沈黙を震わせている
ゆるやかに波打つ毛先遊ばせるあなたの細い指になりたい
声は風 届けば消える風でありいま口元を飛び立っていく
「自由ってかくかくしてて自由って感じじゃないわ、そう思わない?」
鳥を想う 翼を持てば鳥なりの悩みもあるだろう青い空
春用のブーツを履いた一日を語って雨の音を忘れる
ぼくたちは椅子の軋みに囚われる人としてこの夜を超えるよ
(かばん2015年4月号掲載)
かばん3月号「冬の微熱」(連作8首)
『冬の微熱』
はじめてのはじめましてに戻れない扉を開くぼくらの強さ
寒空の澄んだ重さよさらさらと枯れ葉を追えば地を這うばかり
雪解けに音はなくその雪の死を語りつごうとする人もなく
ブランコの冷えた鎖を軋ませて近づく/離れる占いのよう
内側に火を纏うひと火を零すぽつりぽつりと口ひらくたび
丸まった鳩を散らして君は行く冬の微熱のその真ん中を
手に触れる手にそれは波それは花伝わらないよう伝える遊び
明るめの近い未来を持ち寄ってそこにだけ春生み出している
(かばん2015年3月号掲載)
かばん2月号「空を見ている」(連作8首)
『空を見ている』
カイパーベルト生まれた場所をあとにしてどこまで行くか僕らは競う
ゆるやかに低気圧へと向かう日のあなたにもらう大量の棘
笑ってる人たちみんな灰になれ流れ星とは死だ 壮絶な
たとえば土の記憶を辿るようなこと ねえわたしたちどこからきたの
踊ったりしてたんだろうペルム紀はペルム紀なりの愛を奏でて
たましいの位相差として熱のない諍いつづく冬の地下鉄
空を見ているアスファルトはきっと星じゃなく淋しい青の空を見ている
今まさに大量絶滅期だという星の害獣として僕たち
(かばん2015年2月号掲載)
かばん1月号(2首)
詠草2首
教室に浮かぶ金魚を掬いとるあなたは秋の空気のなかに
夜という夜は廊下に溶け込んで踏むたび影として顔を出す
(かばん2015年1月号掲載)
2014年12月26日
かばん12月号「日々に息づく」(連作8首)
『日々に息づく』
網棚に忘れ去られた新聞の文字がかすかに滲む終点
長月の雨に誰かが下を向きそれを見てまたうつむく誰か
風光るような往来だとしてもそれに気付ける人かどうか、だ
じいいいと見つめていればうっかりと動いてしまいそうな人形
みんなしてトントン拍子に踊らされ踏み外すまで笑って過ごす
覚えてる覚えています祝福が温かすぎて痛かったこと
すみやかに所定の位置へ戻りなさい 右手 三日月 左心室 夢
安穏を求めたら朝 コーヒーの匂いの満ちるリビングに着く
(かばん2014年12月号掲載)
かばん11月号「夏果て」(連作8首)
『夏果て』
長月の浜辺へつづく林道に夏の名残を探して歩く
おかえりと言うにはすこし早すぎるあなたの帰還にさわぐ海鳥
白波を生む海風に滑らかな髪をひたすら梳かせる遊び
堤防の茎のみじかい花のことあなたは語るその健気さを
波打ち際は死に近いからいっせーのーで、でつないだ手を突き上げる
海岸にふたりはひとつの点だろう空気の坂を飛行機が行く
上昇気流 上昇気流 夏果ての雲の終わりに気付かないまま
砂浜の砂が靴へと滑り込むように僕らは友達になる
(かばん2014年11月号掲載)
かばん10月号「花に会う」(連作8首)
『花に会う』
幾千の灯りを縫って歩みゆくあなたの背を見る雨上がり
言の葉は錨 ふたりが薄闇にはぐれぬように落として進む
一度閉めた扉をそっと開いたら溢れる花や雨のあること
ろうそくの静かな火照り連なって空へと向かうような丘陵
丸い水面覗き込んだら微笑んで僕らは小さな乾杯をする
毎日は有限だから少しだけあなたと急いでもいいですか
何もないところに花が咲くのです悠然とその目を光らせて
気まぐれに揺られることの心地よく肩にかすかなあなたの重み
(かばん2014年10月号掲載)
2014年10月01日
かばん9月号「工業団地」(連作8首)
『工業団地』
道路沿いには朽ち果てた週刊誌なお朽ち果てている最中の
触れてくるぬるい夏風この夏の僕たちのハイライトに まさかね
人のいないグラウンドにて足跡はたたずむ海底遺跡のように
子供たちから夏はあふれて迫り上がる入道雲のてっぺんへ、道
蝉の声やまない雨のようなこえ反芻しながら生きる誰もが
工場に休日はなくぽつぽつと予感のごとき灯は点りだす
街と山に境界はあるのだろうか 思い出せない恋と友情
車から降りてひとつの夕暮れをレンズの奥で特別にする
(かばん2014年9月号掲載)
かばん8月号「また、夏」(特別作品・連作12首)
『また、夏』
繰りかえす夏の痛みにきらきらと心はいつも傷つきたがる
いちまいの布としてある夏空をあなたは青い夢にたとえる
立ち止まるきっかけはなくえんえんと続く水際えんえんと行く
吹かれるがままに棚引く短めの髪に手を その手に手を添える
ささやかな火種を持っていることも喜びめいて夏のうわつき
甘い声 圧力 憂い 湧きあがる雲を指さすときの共振
つないだ手を振りつつ歩くお互いのあいだに線を何度も引いて
願ってもそちら側にはいけなくてあたりいちめんすっかり寂しい
髪の毛に西日を引火させながら輝く星の危うさを言う
でたらめな童話を作る遊びにも幸せな結末(ハッピーエンド)は見つけられない
夕凪を死と言いかえて海沿いの公園に死がありふれている
夏を呼ぶ仕草のように木々は揺れどこまでが夢だったのだろう
(かばん2014年8月号掲載)
2014年08月15日
かばん7月号「夢で会う人」(連作8首)
『夢で会う人』
おもむろに月の名前を聞いてくる人とダンスの続く真夜中
祝福をひとつ言葉にするたびに生まれる闇を持て余しつつ
誕生日的にはぼくら相性がいいってさ嘘じゃないのに笑う
わーいわーいリズムが狂いはじめてるけれど止めない変な踊りを
いつまでも喝采はないそのかわり息の合う両足のよろこび
朝のため傘差し出してあげたのにいらないよって拒まれている
不自由を楽しんでいる危うさを諭してもなお終わらない旅
夢で会う人に伝える約束を忘れて夢に佇んでいる
(かばん2014年7月号掲載)
2014年06月21日
かばん6月号「羽根の面影」(連作8首+12首)& WEBコンテンツ
『羽根の面影』
空を見る癖がなおらず雨上がり両の腕(かいな)をひろげる少女
背中には羽根の面影 触れるから気付けばすこし動かしてみて
スカートは尻尾 ときおり風に揺れ遠近感を狂わせている
花を見れば花を欲しがる猫として生きているあなたは美しい
目に星を無数の星を宿らせてメテオストライク 夏の風
空に近いところは人を微笑ます 行けガラス張りエレベーター二号機
うす雲を切り裂きながら飛行機はあらたな雲を吐きだして飛ぶ
夏空に白いペンキをぶちまけてあなたの夏の雲になりたい
(かばん2014年6月号掲載)
かばん6月号では
昨年上梓しました歌集「かたすみさがし」の特集を組んでいただいています。
・自選30首
・佐藤通雅さん、中島裕介さん、山田航さん、だいたひかるさん、陣崎草子さんによる評
・アンケートを元にしたインタビュー記事
・ましろ自身によるネット上の短歌イベント紹介記事
など、非常に充実した誌面でした。
こんな素敵な誌面を編集してくださった鳥栖さん、櫛木さん、
そして評をくださった皆様、本当にありがとうございました!
なお、自分で作った記事のおまけとして上記連作に12首加えた20首連作を
WEB技術により写真と半アニメーション化させた作品を制作しました。
こちらが本当の連作「羽根の面影」です。
ご覧いただけましたら幸いです。
http://www.kokoiru.com/para/
20首連作『羽根の面影』
空を見る癖がなおらず雨上がり両の腕(かいな)をひろげる少女
背中には羽根の面影 触れるから気付けばすこし動かしてみて
たんたんと夢を切り貼りする仕事みたいに花を手折ってはこぶ
スカートは尻尾 ときおり風に揺れ遠近感を狂わせている
ウミネコの目が恐ろしい港湾にはろばろひびく波音と声
ふわ、と空気が温められて浮き上がるそんな仕組みの幕開けだった
五本しかない指であなたを捕らえても溢れるでしょうそのすき間から
空に近いところは人を微笑ます 行けガラス張りエレベーター二号機
ペットボトルに新緑まるく閉じ込めて夏の分子が滲むのを見る
花を見れば花を欲しがる猫として生きているあなたは美しい
まなざしは日差しより濃くまっすぐにsuch a little girl 夏のひと
心臓を人に捧げる感覚を知ってるでしょう 手を差し伸べて
目に星を無数の星を宿らせてメテオストライク 初夏の風
光源は孤独のひとつ公園のひかりは木々に散り散りとなる
うす雲を切り裂きながら飛行機はあらたな雲を吐きだして飛ぶ
風に溶けた緑が服に染みついて全身夏になる僕たちは
湿り気をしずかに湛え布地にはすべてを許す境界がある
夏空に白いペンキをぶちまけてあなたの夏の雲になりたい
走れ 夢をさんざに散らしつつ休息地までまっすぐな道
つよい陰 いつか離れるだろう人 寂しいくせに笑ってしまう
(かばん2014年6月号特集記事おまけWEBコンテンツ)
かばん5月号「春の奔放」(連作8首)
『春の奔放』
交差点から波立っていくような陽光に春は紛れています
地面から命すべてに投げかける優しさとして緑の息吹
温もりが生地のすき間をすり抜けるそういう風にして傍にいる
さよならに線を引かずにくる春の白いシーツが風にたなびく
開かれていくのは季節(君じゃない)マヨネーズかけすぎたと笑い
歌いたいときに歌えばいいんだよ永遠みたいにブランコ漕いで
うららかな光に罪を押しつけて僕たちの生き方は奔放
旅行者の仄寂しさに近いかもしれないね 君を失うことも
(かばん2014年5月号掲載)
2014年04月20日
かばん4月号「叙情のためのエチュードZ」(連作8首)
『叙情のためのエチュードZ』
踏まないでいてくれないか桜花風花きれいなままで死にたい
いつだって掴みどころのない答えだったね物語をなびかせて
しなやかさ誇らしくある髪先を風に あなたをここに 会いたい
祝日は祝わなくてはいけないよそれぞれに花持ち寄る四月
去る人の背にささやかな春を見る春の絵画に憎しみはなく
悪だくみのひとつをいまも覚えてる木々にひかりの飛び散るような
手招きを抱擁として新しいものに憧れるんだね 人は
空から見える堤防を覆うようにして春は来るその春に名前を
(かばん2014年4月号掲載)
かばん3月号「叙情のためのエチュードY」(連作8首)
『叙情のためのエチュードY』
マスクから溢れた息にお別れと祈りを告げてまた次の息
春の匂いと冬の匂いを嗅ぎ分けよ鼻を寄せあう口実として
奪いあう遊びのようにお互いの手を褒めあって明け方の街
アスファルトに張りついている陽光を剥がして壜に詰めてもいいよ
首すじに傷は結露のごとくありあなたは何も知らなくていい
地雷原まっすぐ進むための目をみんなが持っています ひらいて
カーブミラーはあくまでも佇むもので春をただしく映し出せない
晩冬は早春と呼ぶことにする とかくあなたは早春の人
(かばん2014年3月号掲載)
2014年03月04日
寄稿・朝日新聞「あるきだす言葉たち」(連作10首)
『赤色の街』
冬木立ほそく広がる夕空へジングルベルが霧散していく
明らかな嘘もまぎれる赤色の街の過剰なひかりにまみれ
ごらん あれが愛だよ偽りも愛のひとつに数えていけば
たいせつなこと美しく粛々と樅の木を背に語られていく
プラタナス あなたを待っているうちに枯れてしまったね プラタナス
冷えた手を温めあっているようで熱は僕からあなたへ逃げる
一年はめぐる ふたりに降りてくる感情もまた花散るように
きらきらと笑う絵文字の往来を結べば星座 しあわせですか
立ち尽くす日もあるだろう道々にみな微笑んでいるスノーマン
降れという命令形を空に撃ち誰のためでもないが 祈りを
2013年12月24日付
朝日新聞東京版夕刊文化面「あるきだす言葉たち」掲載
※安房さんのブログにて掲載歌を素敵な書にしていただきました。
1: http://awaoa.jugem.jp/?eid=686
2: http://awaoa.jugem.jp/?eid=688
3: http://awaoa.jugem.jp/?eid=690
4: http://awaoa.jugem.jp/?eid=692
5: http://awaoa.jugem.jp/?eid=694
ありがとうございます!